最近よくメタバース (Metaverse) という言葉を耳にします。
 身近なところでは、2021年、Facebookがメタバース実現に向けて本格的に動き出し、10月には社名を「Meta(メタ)」に変更したというニュースが有名ではないでしょうか。
 ではこのメタバースとはいったい何のことでしょうか。今回はこのメタバースに焦点を当ててみていきましょう。




メタバース (Metaverse) とは

 メタバース (Metaverse) は、コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービスのことをさします。メタバース内で利用者はアバターと呼ばれる自分の分身を操作することにより、様々な行動をすることが可能です。 メタバース上では、アバターの行動は基本的に自由で制約がありません。そのため、「もう一つの現実の世界」をはじめ様々な展開の可能性を無限に秘めています。

 3次元世界の思想は古くからあり、その空間に名付けられたのがメタバースで、超越(meta)に、宇宙(universe)を掛け合わせた造語です。
 もともとはSF作家のニール・スティーヴンスン(Neal Stephenson)が1992年に発表した小説『スノウ・クラッシュ』に登場する架空の仮想空間サービスの名称でした。その後、技術の進歩により実際にさまざまな仮想空間サービスが登場するようになり、それらの総称や仮想空間自体の名称として用いられるようになりました。
 2000年代に流行したサービス「セカンドライフ(Second Life)」も、2020年に発売された任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」も、メタバースの一つであるとされています。

メタバース (Metaverse) の歴史とその遷移

 メタバース (Metaverse)  の歴史はまだ浅く、世界で最初に社会的にメタバースが注目されたのは2000年代に入ってからでした。2006年頃に起こったメタバース的な仮想世界サービスの先駆けと言えるセカンドライフ(Second Life)のブームがきっかけです。当時、ユーザー数が100万人を超えたばかりのセカンドライフ(Second Life)には米国の大手金融機関やコンピュータメーカーなどが参入し、3DCG(3 Dimensional Computer Graphics=3次元空間でのコンピュータグラフィックス)で作られた仮想世界でアバターを使い、プロモーション活動や発表会などを開催していました。iPhoneもまだ世に出ていない当時、これに参加する手段はパソコンだけで、ユーザーはマウスとキーボードを駆使しながらアバターを操っていました。
 2010年代から2020年代にかけて、再びメタバースが注目を集めるようになります。VRなどの技術の進歩、さらにはNFTと呼ばれるブロックチェーン技術を活用したデジタルアイテムの取引の可能性により、メタバースが現実世界同様のもう一つの世界になる可能性が見えてきたからです。

 2021年、Facebookがメタバース実現に向けて本格的に動き出したことにより「メタバース」という用語が業界で再浮上してきます。10月にはFacebookは社名をMeta(メタ)に変更すると発表し、CEOであるマーク・ザッカーバーグ(Mark Elliot Zuckerberg)氏は、以後は新たな社名のもと、仮想空間の構築に注力し、数年内にSNSの企業からメタバースの企業へ変わると宣言しました。
 ザッカーバーグ氏は2015年時点で「未来では常に装着していられるデバイスによってコミュニケーションは改善される」と語っており、ユーザーはVRヘッドセットを使って「メタバースにテレポート」して、仮想世界の中でリアルなコミュニケーションをするのだといっています。2021年7月にはメタバースを「次のコミュニケーションプラットフォーム」と位置付け、VR空間についてはHorizonという名称で統一、それまでオキュラス(Oculus)ブランドで展開されてきたVR/AR関連のハードウェアについては、2022年初頭よりMetaブランドへの統合を行っていくそうです。

 それに対し、サンフランシスコを拠点とし、Googleからスピンアウトしたスタートアップ企業であるナイアンティック(Niantic)は、AR技術を使って現実の世界とデジタルの世界を融合させ、人々を直接結びつけるという没入型デジタル環境の仮想世界ではない「現実世界のメタバース」を提唱しました。
 Nianticの創業者兼CEOであるジョン・ハンケ(John Hanke)氏は、2021年8月以降、VRヘッドセットに拘束されるようなメタバースを「ディストピアの悪夢」と呼んでいます。
 人気ARゲーム「ポケモンGO」などの開発を手掛ける同社は、2021年11月にARアプリ開発者向けの開発キット「Lightship ARDK(Niantic Lightship AR Developer Kit)」を公開しました。これは 同社のARゲームの動作基盤となっているプラットフォーム「Niantic Lightship Platform」を他の開発者にも提供してARアプリ開発を後押しするというもので、デベロッパーはそれを利用して新たなプロジェクトを生み出すことが可能です。
 これには自力で開発するには相当な手間と労力が必要になる技術を公開することで独立系の開発者がARを活用したアプリを作成することを容易にし、開発者を増やすことで「現実世界のメタバース」というコンセプトを広めていくという狙いがあります。
 また同社は、2千万ドル(約22億6500万円)規模のファンドを開設し、Nianticのビジョンに合致する企業に投資します。
 ローンチ時点で、すでにコーチェラ・フェスティバル(Coachella Valley Music and Arts Festival)、英国の歴史的王宮を管理する非営利組織Historic Royal Palaces、ユニバーサル・ピクチャーズ(Universal Pictures=ユニバーサル・シティ・スタジオ(Universal City Studios LLC))、全米プロゴルフ協会などのブランドと提携しています。
 他方では、2010年代に広い意味での仮想空間としてのメタバースがすでに生まれ始め、2020年時点では主にオンラインゲームで仮想世界的なものが複数存在し、圧倒的な数のユーザーを集めています。
 ゲーム以外の楽しみ方をするユーザーの数も年々増加し、2020年に実施されたトラヴィス・スコットのバーチャルコンサートではアバターを使い、同時接続数1230万人もの人数が参加しました。2021年11月にはジャスティン・ビーバーがモーションキャプチャーを装着してアバターとなりライブを生配信し、専用アプリでの視聴でパフォーファンと交流しています。
 日本でも、2020年8月、米津玄師がバトルゲームFORTNITE(フォートナイト)の空間でイベントを開催したり、2021年7月、ロックバンドRADWINPSが有料バーチャルライブ「SHIN SEKAI “nowhere”」を開催、専用アプリでRADWINPSの楽曲をモチーフにした世界を提供するなど記憶に新しいのではないでしょうか。
 2021年までにソニーグループはEpic Gamesに累計で少なくとも4億5000万ドルを投資しています。メタバースの一つとされている任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」は2021年時点では累計販売本数は3200万を超えており、JTBがJTB島を公開するなど企業活用の模索もされています。2021年11月に告知されたアディダスのブランドラインadidas Originalsのメタバースに関するツイートも気になる所です。

 メタバースがこのまま普及していくのか、どのような方式が主流になるのかなど現段階ではまだはっきりしていませんが、無限の可能性を秘めているのは確かではないでしょうか。


メタバース (Metaverse) が注目される理由

ブロックチェーン技術の活用

 ブロックチェーン(Blockchain)は、ブロックと呼ばれるデータの単位を生成し、暗号技術を使って鎖(チェーン)のように連結していくことによりデータを保管するデータベースを意味します。2008年にサトシ・ナカモトという人物(またはグループ)が、暗号通貨ビットコインの公開取引台帳としての役割を果たすために発明しました(サトシ・ナカモトの正体は現在まで不明)。
 ブロックチェーンは、データの改変に強いとされています。一度記録されたブロックのデータは、後続のすべてのブロックを変更しない限り、遡及的に変更することはできないからです。変更不可能ではありませんが、ブロックチェーンは設計上安全であると考えられています。
 ブロックチェーンの発明により、ビットコインは信頼できる当局や中央サーバーを必要とせず、二重取引問題を解決する最初のデジタル通貨となり、ブロックチェーンは決済手段の一種と考えられています。
 ビットコインの仕組みは他のアプリケーションにも影響を与え、一般に公開されているブロックチェーンは暗号通貨以外の分野でも広く利用されつつあります。

















NFTの活用

 NFT(非代替性トークン non-fungible token、略称:NFT)とは、ブロックチェーン上に記録される一意で代替不可能なデータ単位の事を指します。
 画像・動画・音声、およびその他の種類のデジタルファイルなど、容易に複製可能なアイテムを一意なアイテムとして関連づけることができ(鑑定書と類似)、ブロックチェーン技術を使用して、そのNFTの所有権の公的な証明を提供することが可能です(オリジナルのファイルのコピーは、そのNFTの所有者に限定されず、他のファイルと同様に複製や共有が可能)。

 すなはち、ブロックチェーンを活用してメタバースを構築することにより、メタバース内に資産を生み出すことが可能になるのです。
 身近なところでも、アバターの外見や装飾品、ゲーム内アイテムや武器、芸術作品や画像や音声以外にもSNSへの投稿にも当てはめることが可能で、あらゆるデジタルデータに固有の権利と資産価値を生み出します。
 資産性を持つNFTは売買でき、NFTマーケットプレイスの最大手であるOpenSeaは、2021年8月には流通総額が約3650億円を達成(前月比で10倍超の伸び)するなど今注目を集めているプラットフォームとなっています。 

コロナ禍という環境

 今、メタバースが再注目されている理由のひとつとしてコロナ禍も忘れてはなりません。長引くコロナ禍で、家にいる時間が長くなったり外で人と会う機会が減ることで、オンラインやリモートワークが身近なものになりました。
 インターネットに触れる時間も長くなり、新しいコミュニケーション手段や実入りの手段としてメタバースへの注目が集まります。友人同士はもちろん、他人同士でもメタバースで集まって遊ぶ、戦う、売る、買うといった仮想現実世界に浸ることができるのです。


まとめ

 セカンドライフは当初は各方面で引き立てられ一大ブームを巻き起こしましたが、数年もしないうちに縮小し、参加していた企業も次々と撤退していきました。それから十数年、様々な技術が進歩したとはいえ、今回もコロナ禍というバックボーンがなければまだ数年先の話だったかもしれません。メタバース上では、アバターの行動は基本的に自由で制約がないということは、凝り固まった頭を持った筆者とは違って、柔軟な発想力を持つ誰かの手によって、今までにない驚くような展開が明日にでも生まれるかもしれません。
 メタバースが今後どのようになっていくのかを予想するのは非常に難しいのではないでしょうか(筆者にはできません)。    引用:ウィキペディア 他